2022/01/14
今年もよろしくお願いします。もしかしたら暖冬か例年並みの寒さかもしれないとの事前予想がでていていましたが12月後半から急に寒くなりました。「聞いてないよ」と言ってしまいたくなりますが、自然相手ですので仕方ありません。パンデミックもこちらの都合は関係なく、予断も許さずに「勝手に」起きています。天変地異も感染症も人間の思い上がりをあっけなくくじいてしまいますね。
<かぜ情報>
やはり例年(コロナ前)ほどではありませんが、風邪症状で受診される方は増えてききています。インフルエンザの流行はまだ現時点ではおきていません。外国でも一部でインフルエンザの発生が増えているとの情報もありますが世界的なレベルではやはりかなり少ないようです。
一方でウイルス性胃腸炎はやや多い状況です。発熱で受診される場合の他、嘔吐や下痢が見られる場合もやはり時間指定や隔離室への誘導なども続けます。何かとご不便をおかけしますが、ご理解の程、よろしくお願いします。
<新型コロナウイルスワクチン接種について>
報道されていますように、新型コロナウイルスワクチンの3回目の接種が前倒しで始まる予定です。昨年の1、2回目接種同様に伊奈町では行政で一括で予約を受け付け、各医療機関に割り当てる仕組みになります。当院でも割り当てに従って実施をする予定で、当院で直接予約を受け付けることはできません。まずは接種券が住民票のある各自治体から送られてくるまでお待ちいただくことになります。
<糖尿病コーナー>
メタボリックシンドローム、略して「メタボ」という言葉を聞くようになってから何年も経ちました。一般の方もなんとなくでもご理解いただけるようになったのではないでしょうか。お腹が出てきてしまう太りすぎには注意しましょう、程度でしょうか。大体あっています。改めて解説すると、メタボリックシンドロームとは腹部内臓脂肪の蓄積を背景に高血圧、耐糖能異常、脂質異常が発症しそれが動脈硬化性の疾患のリスクになっている、ということです。さらに詳しくお話しすると、皮下脂肪と違ってお腹の内臓脂肪自体が代謝(メタボ)に様々な悪影響を与え動脈硬化性疾患、つまり脳卒中(梗塞や出血)や虚血性心疾患(狭心症など)を引き起こすリスクになるというのです。ですから、腹部内臓が増えないようにしましょう、ということです。ここでちょっと視点を変えてみます。耐糖能異常、つまり糖尿病もメタボの一部という考えからです。一言で糖尿病といっても個人個人で背景が異なっていて一概には言えません。やせ型でもともと体質的にインスリンを分泌する力が弱い、あるいは加齢そのものの要素が加わってくる場合もあるのですが、多かれ少なかれ糖尿病、つまり血糖を下げられないのは代謝(メタボ)がうまくいかなくなった状態の一つの側面であるという視点です。耐糖能異常はメタボリックシンドロームという大きな氷山の一角とすると糖尿病だけ頑張って治療する、つまり血糖だけ下げても必ずしもメタボのリスクである動脈硬化性の疾患の予防に完全にはなっていないとも考えることができます。逆に言えば、内臓脂肪を減らすことができれば血糖も下げることができますし、メタボによる動脈硬化のリスクも下げることができる可能性が高くなります。ですから、食事や運動による体重のコントロールがやはり重要なのです。理屈ではそうかもしれませんが実際にそこまで実践できるかというとまた話は別です。簡単なことではないことは実感されていることと思います。自らの行動で改善できない場合の次善の策としてお薬があります。血圧やコレステロールのお薬でメタボの他の要素(氷山の他のところ)を管理することができるようになってきました。実際に血糖だけでなく血圧、脂質もお薬でしっかり管理すること(集学的治療といいます)が動脈硬化性疾患の発症の予防につながったことを示唆する日本人のデータもでています(J-DOIT3研究など)。氷山自体は残っていますがとにかくその氷山の悪いところを多方面から減らしてしまうのです。また糖尿病のおくすりでも最近では血糖を下げるだけではなく、それとは別に動脈硬化を減らし、ひいては心臓や腎臓を守る作用のあるお薬が使われるようになってきました。そもそもは糖尿病のお薬、つまり血糖を下げる目的の薬として使われ始めたのですが、後になって別の作用もあることがわかってきたものもあります。この「別の作用」こそが糖尿病の治療全体の究極の目標だったわけですが、この副次的効果は当初はだれも予想でてきていませんでした。
お薬の思わぬ恩恵も得られるようになってきましたが、やはり糖尿病はメタボという氷山の一角という感覚を共有していただきたいです(ただし、1型糖尿病や痩せている糖尿病、高齢者糖尿病ではメタボとの関連がないか、少ない場合が多いです)。
<院長の日記>
内田百閒(「ひゃっけん」)をご存知でしょうか。戦前は小説家および大学のドイツ語教授、戦後は随筆家として名が知られた人です。夏目漱石の弟子でもあったようですが、やはり戦後から晩年にかけての随筆が大変すばらしく代表作「阿房列車」シリーズは私もすべて読みました。百閒は鉄道が大好きと公言して憚らず、「阿房列車」は鉄道での紀行文のようなものと言ったらいいでしょうか。ユーモアと独特な視点、そして彼にしか書けない文体は本当に貴重で楽しめます。鉄道マニアは今でこそ沢山いますが、彼はその先駆けですね。「撮り鉄」(鉄道の写真を撮るのが好きなマニア)の方ではなく「乗り鉄」の方です。とにかく「ガタゴト」と揺れるのに乗っているのが気持ちいいようですし、移動すること(旅と言っていいのか?)も大好きのようです。私なりに例えてみるなら初めて電車に乗った子供はとにかくそれだけでワクワクしていると思いますが、それが年をとってもずっと続いているような、文体からはそんな感覚が伝わってきます。「第一阿房列車」の冒頭数文だけでも引き込まれます。「なんにも用がないけれど、汽車に乗って大阪に行って来ようと思う」「これからは一等(客車)にでなければ乗らないと決めた」「二等に乗っている人の顔付きは嫌いである」・・・。こんな感じです。実際にはお金にはいつも困っていて、借金したりおごってもらったりしていたようです。旅にはいつも「ヒマラヤ山系」とあだ名をつけた弟子が同行しています。そのやり取りも面白いです。奥の細道の河井曽良、シャーロックホームズのワトスン博士のような存在でしょうか。
ところで、この正月に黒澤明監督の「まあだだよ」という映画をみました(ネット配信です)。主人公は内田百閒で、松村達夫が演じています。脇役、老け役で有名な松村達夫が初主演したということで興行当時話題になったのを覚えています。ここでは内田百閒と彼を慕う多くの教え子たちとの交流が描かれています。とても穏やかなトーンの映画です。事実とは違う脚色も多少はあるようですが百閒の人柄がよく描かれていて、確かに阿房列車の百閒と重なるなと感じました。人を笑わせる話術と不器用さ、温かさ、屈託なさに惹かれ、なにかにつけて多くの教え子が集まっては一緒にお酒を酌み交わし、世話を焼いてもらっています。私は個人的には孤独な老後であってもいいと思っていますが、あんな楽しい老後もいいなと思います。好きな事をやって好きな事を言ってみんなに楽しんでもらっているのですから。ちなみにこの映画が黒澤明の遺作になりました。そういえば、ベートーヴェンの最後の弦楽四重奏曲、第16番もモーツァルトの最後のピアノ協奏曲、第27番もとても穏やかで澄み切ったような音楽でした。